ボッシュ・シリーズと音楽 その5

シリーズのスピンオフ作品の中で、ボッシュと最もつながりの深いテリー・マッケイレブが鮮烈に初登場した「わが心臓の痛み(Blood Work)」から、音楽を拾ってみたい。

ザ・ロンドン・ハウリン・ウルフ・セッションズ+3まず冒頭シーン。心臓移植の手術を受けてまだ8週間のマッケイレブが散歩から帰ると、美女が自分のボートを美女が訪れている ・・・「女性の姿がはっきり見えてくるにつれ、マッケイレブは、自分の恰好がやたらと気になってきた。ポータブルCDプレイヤーのイヤホンを耳から抜き取り、ハウリン・ウルフが《アイ・エイント・スーパースティシャス》を歌っている途中でCDを止めた。『何の用ですか?』 ・・・」 ―― Howlin’ Wolf, “I Ain’t Superstitious” in “London Howlin Wolf Sessions +3 Limited Edition”(CD)

次に別のシーンで、同じアルバム(ただし今度はカセットテープ)がまた使われる。自分で車の運転ができない状態にあったマッケイレブは、隣人にそれを頼んだ。ようやく隣人の車がやってくると、「・・・カーステレオに入れたハウリン・ウルフのテープを大音量でかけていた。(中略。隣人は)ドア・ポケットからハーモニカを引っぱりだした。《ワン・ダン・ドゥードル》に合わせて演奏を始めた・・・」 ―― Howlin’ Wolf, “Wang Dang Doodle” in “London Howlin Wolf Sessions +3 Limited Edition”(CD)

Best of Louis Jordanマッケイレブは主治医に会い、病院から帰ろうとしている。「下りのエレベーターは人がいっぱいで、有線の音楽を除いて、だれも話をしていなかった。音楽はルイ・ジョーダンの《ノック・ミー・ア・キス》の古い録音だとマッケイレブにはわかった」 ―― Louis Jordan, “Knock Me A Kiss” in “Best of Louis Jordan”(CD)

Let It Bleedマッケイレブは隣人の車を自ら運転していた。かれは以前、隣人からハーモニカの吹き方を教わっており、「・・・ローリング・ストーンズの」《ミッドナイト・ランブラー》のでだしのリフを奏でられるところまで達した。いま、その曲を演奏しようとしたが、正しい音がみつけられず、出てきたのは老人がぜいぜいあえいでいるような音になってしまった」 ―― Rolling Stones, “Midnight Rambler” in ” Let It Bleed “(CD)

Fire: the Jimi Hendrix Collectionマッケイレブは犯人の跡をたどり、工業地域でガレージや倉庫が立ち並ぶドライブウェイに入り込んだ。暗い夜だった。「・・・あたりを見まわした。ずいぶん距離があるとおぼしきところから、かすかな音楽が聞こえてきた――ジミ・ヘンドリックスが”おまえの炎の隣に立たせてくれ”と歌っている・・・」 ―― Jimi Hendrix, “Fire” in ” Fire; the Jimi Hendrix Collection “(CD)

ジョン・ウェズリー・ハーディングその少しあと、犯人のガレージを見つけたマッケイレブは、鉄棒を使ってドアの南京錠を壊そうとし音をたてる。「・・・あたりを見まわし、耳を澄ました。なにもない。ただヘンドリックスがボブ・ディランの《見張塔からずっと》をカバーしているだけだ。ここはオリジナルの方を紹介しておくべきだろう。 ―― Bob Dylan, “All Along the Watchtower” in “John Wesley Harding”(CD)

ボッシュ・シリーズと音楽 その6につづく。

 

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投稿者: heartbeat

管理人の"Heartbeat"(=心拍という意味)です。私の心臓はときおり3連打したり、ちょっと休んだりする不整脈です。60代半ば。夫婦ふたり暮らし。ストレスの多かった長年の会社勤めをやめ、自由業の身。今まで「趣味は読書」といい続けてきた延長線で、現在・未来の「同好の士」に向けたサイトづくりを思い立ちました。どうぞよろしくお願いします。