本作では、2002年1月の事件と、ボッシュが重大な転機にいたる経緯が描かれていく。丘陵地帯の森から、戻った犬がくわえてきたのは幼い少年の腕の骨だった。鑑定の結果、少年は生前に日常的な虐待を受けていたことが判明する。ボッシュは少年の無念をはらすため、20年以上ものあいだ発覚しなかった事件の真相を明らかにすべく調査を始める。
まもなくボッシュは、現場付近に住み逮捕歴がある児童性愛者の男にたどりつくが、男は無実を訴えて自殺してしまう。手掛かりのない状況に陥るとともに、かれを快く思わない上層部からまたしても解雇の圧力がかかる。ボッシュは、孤立無援状態のなかで事件の早期解決を迫られ、絶体絶命の窮地に立たされていく。なおも捜査を続けるかれを、何が待ち受けていたか・・・。
ボッシュは、ラストできわめて重い決断を下す。それまで永年勤めてきたLAPDを退職し、警察官であること自体を辞めるのである。パトロール警官に採用された1972年から数えてほぼ30年、刑事に昇進した1977年から25年のちの選択であった。「自分自身と自分の選択についてたえず逡巡しながらこれまで生きてきたボッシュが一つの大きな決断をするまでを描いた、ボッシュ・シリーズ第8作。深い哀しみを背負いながらも強く生きるボッシュに胸を打たれる」(加藤航平氏)
ボッシュが警察にいた理由は、単なる職業選択の問題ではけしてなかった。ボッシュの強烈な使命感に照らし、その使命の達成手段を突き詰めていくとき、結論は警察官しかなかったからである。詳しくは、「ボッシュ人物論(2)」以降を参照。
なお本作「シティ・オブ・ボーンズ」は、シリーズの順番では、講談社文庫の「夜より暗き闇」と、同文庫の「暗く聖なる夜」の間に位置する作品だが、これのみハヤカワ文庫として出版されたため、見逃した読者も少なくないと思われる。そうであれば、実にもったいない。シリーズの転機を描いているばかりでなく、アンソニー賞最優秀長篇賞、バリー賞最優秀長篇賞を受章し、エドガー賞長編賞にノミネートされるなど、総合的に高い評価を獲得した作品である。
なお、まったくの蛇足であるが、「骨」といえばミステリー小説の定番アイテムであり、ジェフリー・ディーヴァー(Jeffery Deaver)の1997年の作品「ボーン・コレクター(The Bone Collector)」を思い起こす向きも多いだろう。そちらも確かに面白いが、ボッシュが直面する「シティ・オブ・ボーンズ」は次元の異なる傑作であると断言したい。