2006年9月、LA中心部のエコー・パーク(Echo Park)で、車に女性の複数死体を乗せた男が逮捕された。男は司法取引をもちかけ、死刑免除を条件に過去に犯した9件の殺人について自供を始める。そのなかに、ボッシュが13年前に担当し、迷宮入りしていた若い女性の失綜事件が含まれていた。
ボッシュはその未解決事件の初動捜査で自ら招いたミスに気づき、さらに事件を見直すなかで見逃していた情報があったことを知る。状況に違和感を覚えながらも、ボッシュらは男と共に女性死体を埋めたという現場に向かうが、そこでも関係者のあってはならない失態が重なり、惨事を招き寄せてしまう。警官2人とパートナーのキズミンが銃撃を受けてしまうのである。
ボッシュは自宅待機の身となるが、自らの失敗に苦しみ、急展開する状況に翻弄されながらも、少しずつ真相に近づいていこうとする。前作の「終決者たち」では、地道な捜査を積み上げて事件を解決できたが、本作では失敗が失敗を呼び、積み上がったものが次々と崩壊するといった真逆の状況が描かれる。しかし最後にはもちろん、コナリーは、マジックのような見事な幕切れを用意している。
「『エコー・パーク』では、司法取引にからむ現在進行中の事件と過去の未解決事件を透視図法で描くという超絶技巧を駆使しながら、最後にあざやかなツイストを演出してみせる。司法取引を扱った作品は珍しくないが、この着地のあざやかさはコナリーならではのものだといっていいだろう。(郷原宏氏; 「夜より暗き閣をゆく最後のコヨーテ; マイクル・コナリー賛歌」 ミステリマガジン2010年7月号より)
本作では、事件の途中で負傷したキズミンに代わって、FBIのレイチェル・ウォリングがボッシュの事件解決を助けるが、ボッシュのあまりの無謀さに呆れて去っていく。ラストでは、キズミンが嬉しいことに回復するが、未解決班への復帰でなく本部長室を選択し、ボッシュのもとを離れる。だが、そのことによってボッシュは、自分が生まれて初めて「守護天使」を得たことを知る。
なお、ボッシュの確執相手だったアーヴィン・アーヴィングは前作でLAPDを去り、今回は市会議員に立候補していて、それが事件にも微妙に影響するのだが、大勢に影響を与えることはない。
高名なミステリ評論家オットー・ぺンズラーは、本作を2006年のベストミステリの一冊として掲げた: ”The Best Harry Bosch story yet”
本作は、また、2006年度ロサンジェルス・タイムズ・ブック・プライズ(ミステリ/スリラー部門)を受賞した。