終決者たち The Closers

Parker Center,  LAPD
Parker Center,  LAPD

2005年 1月、ボッシュは、退職者復帰プログラムの適用を受け、3年弱の私立探偵からLAPD・RHDに復帰した。一旦は捨てたバッジだが、それを失えば、自分の人生にあると信じる使命を果たすことができないと悟ったのだ。ボッシュ55歳を目前にしての再決断である。警察官への復帰は、作者コナリー自身の決断でもあったろう。(下のほうにコナリーへのインタビューを転載)

RHDでは未解決事件班(the Cold Case Special Section)でキズミン・ライダーと再びチームを組み、最初に17年前の少女殺人事件を追うことになる。再捜査を進める中で、当時のLAPD上層部の圧力によって、この事件が迷宮入りしたという衝撃の事実が判明する。その圧力の元である「組織悪」は消え去ったわけではなかった。

ボッシュらは少女殺人事件に関与していると思しき人物を突きとめ、マスコミに捜査状況を流すことで、見えない真犯人をあぶり出す作戦に出る。しかし、難航する捜査にメディアと警察内部から批判が高まり、次第に窮地に立たされていく。意外な背後関係を見せる難事件に、ボッシュらは徹頭徹尾、事実にもとづき、地道に事件を解き明かしていく。

LA_l-1262207_960_720 4「終決者たち」は、本格ミステリーの風格をそなえた警察小説として、一つの頂点を極める作品と評される。「本書は、おそろしくまっとうな警察小説(Police Procedural) である。徹頭徹尾、事実にもとづき、地道に段階を追って、事件解明にあたっている。そういう「手続き(procedure)」の公正さが、元々、ミステリとしての本シリーズの魅力であり、それが遺憾なく発揮されている」(古沢嘉通氏、訳者あとがきより)

さて、本シリーズの作品には多くの秀逸なラストがあり、その中のいくつかは、現実に起こった人生のひとコマとさえ言えるような鮮明な印象を残している。本作の場合は、いままでのラストにあった寂寥感や、哀愁や叙情といった種類の感動とはうって変わって、何とも後味のよいエンターテインメント的な終わり方をしている。

そのラストにに最も貢献しているのは、だれあろう、長らくボッシュと確執を演じてきたアーヴィン・アーヴィングである。かれはLAPD副本部長として「組織悪」の頂点に君臨するまでになったが、本作のラスト近くのシーンで、ボッシュやわれわれ読者の前から(一旦、であるかも知れないが)、独りで立ち去るようすが描かれる。まさに、状況の逆転!(アーヴィングとの確執の軌跡はこちら

話を少し戻し、コナリーがボッシュの警察復帰について語るインタビューの一部を転載させていただく。

highway-216090_960_720-02「(ボッシュがロス市警に復帰した理由は)ふたつある――ハリー ・ボッシュの動機と、作家としてのわたしの動機だ。ハリーは2年ほど警察を離れていて、自分が選択ミスをおかしたと悟った。彼は、自分の人生には使命があると信じており、バッジを失えば――それにともなういやというほどの官僚主義や警察内部の利害関係にもかかわらず――その使命を果たす能力を発揮できないことを悟ったんだ。それで、彼は復帰した。

わたしの場合、ハリーを私立探偵にしているとシリーズをつづけていけないのに気づいた。(中略)私立探偵小説を2冊書いたあとで、このままでは自分の小説に持たせたいリアリズムが維持できないとわかったんだ。(中略)現実には私立探偵は、たくさんの殺人事件を解決することはない。そのため、もしハリーを私立探偵として使いつづけ、殺人事件を次々と解決していったなら、登場人物やシリーズの信憑性を欠いてしまうだろうと、わかったんだ。それで、わたしはハリーにバッジを返すことにした」(2005年1月 WritersBreak.com掲載のインタビュー記事より、古沢嘉通氏訳)

本作は、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリスト第一位に選ばれた。「おそらく、今後シリーズが何冊つづいても、一番のお気に入りは、本書でありつづけるだろう」(再び、つまみ食いで申し訳ないが、古沢嘉通氏の訳者あとがきより)


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投稿者: heartbeat

管理人の”Heartbeat”(=心拍という意味)です。私の心臓はときおり3連打したり、ちょっと休んだりする不整脈です。60代前半。夫婦ふたり暮らし。ストレスの多かった長年の会社勤めをやめ、自由業の身。今まで「趣味は読書」といい続けてきた延長線で、現在・未来の「同好の士」に向けたサイトづくりを思い立ちました。どうぞよろしくお願いします。