天使と罪の街 The Narrows

Santa Catalina Island, LA マッケイレブが家族と最後に暮らした場所
Santa Catalina Island, LA
マッケイレブが家族と最後に暮らした場所

2004年4月、ボッシュ54歳。「夜より暗き闇」の事件解決から再び3年、平穏な引退生活を送っていたはずのテリー・マッケイレブが、不審な死を遂げた。私立探偵となっていたボッシュは未亡人からの依頼を受け、マッケイレブの遺した重要な手掛かりに導かれて調査を進めていく。

一方、ネヴァダ州の砂漠では多数の埋められた他殺死体が発見され、左遷中のFBI捜査官レイチェル・ウォリングが現地に召致された。彼女はかつて取り逃がした稀代のシリアル・キラー「詩人」の犯行を確信する。「詩人」については本作の実質的な前篇である「ザ・ポエット(The Poet)」を読了しておく必要がある。

The Complete Tales and Poems Edgar Allan Poe
The Complete Tales and Poems
Edgar Allan Poe

ボッシュはマッケイレブの身にふりかかった事件を追い、やがてレイチェルと共に「詩人」こと連続殺人犯の跡を追うことに。「詩人」もまた、追っ手をあざ笑うかのように捜査を攪乱し、用意周到に悪しき企みをめぐらせる。ボッシュとレイチェルの行く手には、シリーズ最大の未解決な「悪」との対峠が待ち受ける。

ラストに向かって、シリーズと外伝における別々の物語の支流が、一本の水路(The Narrows)ヘと激しく合流していくのである。「このように本作は、豪華キャストの総出演によって、これまで営々と築いてきたシリーズとノン・シリーズの未解決部分にひと区切りをつける解決篇、『(善と悪の)最終決戦の物語」でもある」(小齊将裕氏)

the Glendale Narrows Los Angeles River
the Glendale Narrows
Los Angeles River

「『天使と罪の街』も、既存の他シリーズの収束(発展的解消?)を狙ったという意味で、コナリーの創作姿勢を知るうえで興味深く読んだ――これまでのコナリー作品のなかで、loose end (紐の結ぼれていない端、すなわち、未処理案件)という表現がしつこいくらいに繰り返し出てくるのだが、「未処理案件」を処理せずにはおれないというのが、この作家の抱えている強迫観念のような気がする」(古沢嘉通氏)

マッケイレブは本作導入部で無念の死を迎えてしまったが、かれが「自分の娘の目の中に見いだしたもの」は、無事にボッシュに継承されている。前作「暗く聖なる夜」に続き、ボッシュとエレノアの娘、マデリン(マディ)が本作にも登場して支えになる。ボッシュはとうとう、深淵を覗いてもそこに捕らわれないための、心の拠り所を手に入れたのである。

child-489685_960_720-2「容赦なく何事にも屈しなかった男はいまや脆さを見せている。数年前に彼は自分に娘がいたと知った。多くの点で以前とはすべてを一変させる過去のよすがである。娘をつうじてハリーの心に手を伸ばすこともできる。こうして物事は変化する。特にハリー本人が。」(「ヒエロニムス・ボッシュ」マイクル・コナリー(三角和代氏訳)ミステリマガジン2010年7月号より)

なお、本作のあるシーンに、「パッドラッグ・ムーン」のキャシー・ブラックも、逃亡犯であるため名乗ることはないが登場し、独特の印象を残している。


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投稿者: heartbeat

管理人の”Heartbeat”(=心拍という意味)です。私の心臓はときおり3連打したり、ちょっと休んだりする不整脈です。60代前半。夫婦ふたり暮らし。ストレスの多かった長年の会社勤めをやめ、自由業の身。今まで「趣味は読書」といい続けてきた延長線で、現在・未来の「同好の士」に向けたサイトづくりを思い立ちました。どうぞよろしくお願いします。