2007年3月、その半年前の「エコー・パーク」事件の余波で、ボッシュは殺人事件特捜班(the Homicide Special Section)に異動していた。負傷もあって本部長室勤務になったキズミン・ライダーに代わり、若いイグナシオ・フェラス(Ignacio “Iggy” Ferras)がパートナーになった。
新チームはマルホランド展望台(the Mulholland Scenic Overlook)で発見された射殺体の事件に出動する。そこでボッシュは、FBI捜査官レイチェル・ウォリングと再会し、テロリストが関与している可能性を知る。犠牲者は、妻を殺すと脅迫されていた医学物理士で、病院から癌治療用の放射性物質セシウムを持ち出していたのだ。
ボッシュはFBIの介入に阻まれながらも、ひたすら犯人を追う。殺人犯が見つかればセシウムも見つかると考え、FBIと渡り合いつつ徹頭徹尾、「これは殺人事件だ。俺の事件だ」という姿勢をつらぬく。12時間のスピード感あふれる緊迫の捜査が描かれる。
原題のThe Overlookは、直接的にはもちろん、犯行現場のマルホランド展望台(the Mulholland Scenic Overlook)を指すが、動詞の “overlook”には「見落とす」とか「見過ごす」「逃す」といった意味があり、なにかを見落としていたことを示唆している。
コナリーは、本シリーズのエピソードを短篇としてあちこちで発表しているが、本作はそれらとは別に、ニューヨークタイムズの日曜版に連載されていたものをベースにしており、短篇よりは随分と語数があって、一応長編として出版されたもの。シリーズのなかでは、内容、出版形態ともに異色の作品といえる。