ジャック・マカヴォイは、連続殺人犯「詩人」のスクープで一躍有名ジャーナリストとなり、その後、デンバーのロッキー・マウンテン・ニューズ紙からロサンジェルス・タイムズ紙に引き抜かれいた。本作ではボッシュ・シリーズからスピンオフした記者マカヴォイが、「ザ・ポエット」に続いて主人公を務める。
2009年5月、マカヴォイは、タイムズ移籍後に目立った活躍がなかったことから、折からの不況で人員整理の対象となり、レイオフを言い渡されてしまう。後任の新人記者に警察回りの仕事を引き継ぐための2週間の猶予期間が過ぎれば、タイムズを去らねばならない。
そんな状況の中で、マカヴォイは、LA南部で起こった殺人事件で逮捕された少年が冤罪である可能性に気づく。スクープを予感し取材するマカヴォイは、「農場」から、殺人犯と思しき
「案山子(スケアクロウ)」によって遠隔監視されていた。本作では、マカヴォイの視点と行動、不気味な犯人側の視点と行動が交互に描かれ、それらが次第に近づき、やがて結末に至るまでをワクワクしながら読み進めることになる。
マカヴォイを助けるのは、FBI捜査官レイチェル・ウォリングである。ふたりは、「ザ・ポエット」以来のタッグを再び組んでこの難事件に立ち向かう。レイチェルが導き出した「案山子」の本質は、女性の下肢装具に性的興奮を覚える倒錯者であった。マカヴォイとレイチェルは、幾重にも張りめぐらされた危険な罠をかいくぐって「案山子」に迫っていく。
ジャーナリストとして13年間のキャリアを持つコナリーと、主人公ジャック・マカヴォイには、おそらく何らかの共通点があろうと想像できる。本作では、経験豊かなベテラン記者でも時代の波に翻弄され得ることが生々しく描かれているが、そのあたりにつき、関口苑生氏が「ザ・ポエット」の解説のなかでコナリーのコメントを紹介しているので、もう一度以下に引用させていただく。
「現在はすでに閉鎖されてしまったが、インターネットのコナリーのホーム・ページに、自分とマカヴォイとの類似点を述べたインタビューが掲示されたことがある。
『主人公である事件記者の暮らしの細かい点というか、大部分はわたし自身の体験――人間の暮らしの中で、最も心傷つく体験をもとにして書きました。感情的に燃え尽きてしまう前に、すべてにおいてシニカルになってしまう前に私は仕事を辞めた。そういうふうに燃え尽きてしまった記者や警官を何人もこの目で見てきたからです。これはジャック・マカヴォイについても言えることです。彼は挫折した〈作家〉で、記者という職にあまりにも長くいすぎたんです。現実の記者たちはジャックと違って、新聞社から新聞社へ、街から街へと渡り歩くことで自分に活力を与えようとしています』
しかし、ジャックの場合は(同時にハリー・ボッシュもまたそうだが)、組織の中にいながら周囲からはアウトサイダーと見られており、結局のところワンマン・アーミーでもあった。慎重でありながら気高く、人と深く関わることを警戒しながら、最後まで闘うことをやめようとはしない。」