1996年、ボッシュは上司への暴行を理由とする18ヶ月の強制休職処分を終え、ハリウッド署盗犯課を経て同署殺人課に戻ってきた。ボッシュ46歳。新しい上司は、何となく感じの良さそうなグレイス・ビレッツ警部補となり、彼女は3名編成の捜査チームの一つをボッシュに任せる。メンバーは以前から知るジェリー・エドガーと若手の女性刑事キズミン・ライダーである。二人とも仕事熱心で、ボッシュにとって仕事をしやすい環境が整った。
ボッシュの新たなチームは、「トランク・ミュージック」というマフィアの手口と見られる殺人事件に取り組む。ハリウッド・ボウルを見下ろす崖の上で、駐車した車のトランクに残されていた死体は映画プロデューサーであり、犯罪組織の資金洗浄係という裏の顔を持つ男だった。ボッシュは、男が殺される直前に訪れていたラスヴェガスに飛び、そこで意外な人物に出会う。
二つの都市を往復しながら捜査を進めるボッシュの前には、お約束のように、LAPDの組織犯罪捜査課(OCID)や内務監査課(IAD)が障碍として立ちふさがる。一方、FBIの捜査官はボッシュに驚くべき事実を明かし、事件は意外な方向に二転三転していく。
ボッシュがラスヴェガスで出会った人物は、第1作「ナイトホークス」で別れた運命の女性、エレノア・ウィッシュだった。シリーズも第5作となり、それまで得られなかった安息の場所が、たとえ一時的なものだとしても、やっとボッシュに与えられたように見える。作者コナリーの意図としては、第4作までのヘビーな展開によって、限界近くまで張り詰めてしまった、主人公自身と読者のテンションを少し緩めてやる必要があったのであろう。
さて、本作にはシリーズの重要モチーフである、エドワード・ホッパーの絵画作品、「ナイトホークス(=夜ふかしをする人たち; Nighthawks)」が再び登場する。ボッシュは、第1作の事件後、エレノアから贈られたこの絵(複製画)を地震で失ってしまうが、本作でエレノア本人に再開すると同時に、彼女のラスヴェガスの家を飾る同じ絵に再会したのであった。この絵がまさに、「ふたりの心のつながりを象徴するもの」(解説の岩田清美氏)であったのだ。(ホッパーの絵画について、詳しくはこちら)
本作はバリー賞を受賞した。