1997年2月28日、開店直後のバンク・オブ・アメリカ、ノースハリウッド支店で銀行強盗が押し入り、激しい銃撃戦となった。ボッシュとエドガーも終盤に駆けつけたようだ。この事件は途中からテレビ局の空撮によって全米で放映され、それを基にテレビ映画『44ミニッツ』も作られた。なおこの事件以後、LAPDは全般的に、警察官の重武装化を進める。
1998年4月の、テリー・マッケイレブ(Terrell “Terry” McCaleb)の事件が、ボッシュ・シリーズの外伝「わが心臓の痛み(Blood Work)」で描かれている。ここでボッシュはチョイ役で登場するのみだが、テリー・マッケイレブとボッシュの軌跡は、この3年後、「夜より暗き闇(A Darkness More Than Night)」において再び交錯することになる。
「マッケイレブ初登場の本書(わが心臓の痛み)はアンソニー賞、マカヴィティ賞、フランス推理小説大賞の3冠を獲得。内容も輝かしい経歴に相応しい出来だ。事件が主人公自身と深く結び付いているのが著者の作品の特徴の一つだが、本書はその極北と言える。事件と主人公の関係がハードボイルドとしての味わいに深みを与え、更に謎解きの要素にも繋がってくる。コナリーの本領が存分発揮された一冊だ」(釘嶋欽太氏)
1999年4月、「エンジェルズ・フライト(Angeles Flight)」(シリーズ第6作)の事件。死体発見現場は、LAのバンカーヒル(Bunker Hill)にあるケーブルカー「エンジェルズ・フライト」(Angeles Flight funicular railway)の頂上駅であった。ボッシュは、幼いときに母親とこのケーブルカーに乗った記憶がある。
この事件の被害者の一人がLAPD相手の人権訴訟を専門とする黒人弁護士だったことから、メディアは警察の犯行を疑う。彼の死を引き金とする危険な暴動の気配が、捜査にあたるボッシュらにプレッシャーとしてのしかかる。1965年のワッツ暴動(Watts Riots)、ロドニー・キング事件に由来する1992年のロサンジェルス暴動以来、LAPDはトラウマに囚われている。(1992年の暴動については、こちらも)
この事件では、かつての相俸や仇敵などの過去に登場した様々な人物が、それぞれの思惑を胸にふたたびボッシュと邂逅し、複雑に絡み合っていく。ボッシュはうまく彼らと向き合い、錯綜する事件を解決に導くことができるのか。この「エンジェルズ・フライト」は、警察小説としてもコナリーが頂点に達したとされる傑作である。
一方、残念なことに、3年前にせっかく再会・結婚したエレノア・ウイツシュとの生活は、この事件と並行して破局を迎えてしまう。人と出会い、別れていくときの、ボッシュの思いが深く沁みわたる。
さて、ボッシュの内なる魂やボッシュとエレノアとの心のつながりを象徴する、一枚の絵をぜひとも紹介しておきたい。エドワード・ホッパーの「ナイト・ホークス(夜ふかしをする人たち)」である。本シリーズ第一作のタイトル(邦題)はここから採られた。その重要な絵の意味について、詳しくはこちら。ナイト・ホークス(夜ふかしをする人たち)by Edward Hopper