ボッシュの履歴書(1) 警察官となる

LA_city-skyline-719961_960_7201970年の夏、ハリー・ボッシュは除隊してロサンジェルスに戻ってくる。かれは、生い立ちのトラウマに加えて、苛酷な戦争体験の記憶に苛まれるようになっていたが、思いは自分自身の失われたアイデンティティの探求に向かう。

それまで別段、気にもしていなかった自分の出生について調べ始め、やがてある人物が実の父親であるとの確証に行きつくのである。ボッシュは父親との面会を果たすが、父親は末期癌を患っており、面会後、あまり日をおかずに死去する。これらの経緯は「ブラックアイス(The Black Ice)」の中で明かされる。

アイデンティティの重要な一部を確認したボッシュはその後、1年半ほどの期間を警察官になるための準備に費やしたであろう。かれは軍隊をやめ、なぜ警察に入ろうとしたのか。どのような動機があったのか。詳しくは、「ボッシュ人物論(2)・(3)」を参照。

ここはまず、作者コナリーに語ってもらおう。「ベトナムからもどった彼は、またもや重荷を扱う組織に参加する。警察だ。兵士は刑事になり、殺人事件を解決することで母のかたきを繰り返しうつのだ――特に女性の。

そこがこのキャラクラーの要だ。心に抱える幼い頃のトラウマによってこの刑事は駆りたてられる。この一面があれば、彼が手がける事件はどれも仕事ではなく、個人的な領域に踏み込むものになるだろう」(マイクル・コナリー; 「ヒエロニムス・ボッシュ」三角和代訳、ミステリマガジン2010年7月号より)

ボッシュの母親は、かれが11歳のとき、何者かに殺害された。未解決に終わったこの事件こそ、ボッシュが警察官を志望する出発点だったのである。そして、1972年8月、ボッシュは、警察官に採用された。しかし、小説ハリー・ボッシュ・シリーズは、かれが刑事に昇格するまでは始まらない。

ボッシュの履歴書(2)につづく。

 

More from my site

  • リアルタイムの大河小説 その2リアルタイムの大河小説 その2   作者コナリーが、最初からこれほど長いシリーズを構想していたとは信じにくい。しかし、少なくとも、フィリップ・マーロウやダーティ・ハリーと異なる際立った個性を刑事 […]
  • ボッシュ人物論2 使命感はどこからボッシュ人物論2 使命感はどこから ボッシュは、母の死から33年後、未解決に終わったその事件の調査を始める。そうするうちにボッシュは、長い間ずっと心の片隅に残っていたというのは言い訳であり、自分はそれから目を背けて […]
  • ボッシュの履歴書(7) 強制休職処分ボッシュの履歴書(7) 強制休職処分 LAPDはボッシュのホームグラウンドであり、普通の職場感覚でいえば、ボッシュの心安まる居場所であってほしい。しかし実態は、「争闘の場」とまでは言わないが、ボッシュにとって何かとス […]
  • 判決破棄 リンカーン弁護士 The Reversal判決破棄 リンカーン弁護士 The Reversal 2010年2月、ミッキー・ハラーは地区検事長から、特別検察官としてある再審裁判に挑んでほしいと依頼される。12歳の少女を殺害して有罪となった男は、24年近く服役しながら再 […]
  • ボッシュ・シリーズと音楽 その6ボッシュ・シリーズと音楽 その6 次に紹介する「エンジェルズ・フライト(Angeles […]
  • バッドラック・ムーン Void Moonバッドラック・ムーン Void Moon ヒロイン、キャシー・ブラックは仮釈放中の元窃盗犯である。現在は自動車のディーラーとして働いているが、ある理由により大金を得る必要に迫られ、昔の仲間から仕事を受けて、ふたたび犯罪に […]

投稿者: heartbeat

管理人の"Heartbeat"(=心拍という意味)です。私の心臓はときおり3連打したり、ちょっと休んだりする不整脈です。60代半ば。夫婦ふたり暮らし。ストレスの多かった長年の会社勤めをやめ、自由業の身。今まで「趣味は読書」といい続けてきた延長線で、現在・未来の「同好の士」に向けたサイトづくりを思い立ちました。どうぞよろしくお願いします。