キズミン(キズ)・ライダー その2

stairs2002年の半ばに、キズミンは警部補(Lieutenant)試験を受けて合格し、パーカーセンター6階のLAPD本部長室の補佐官に抜擢された。彼女は出世階段を上り続けているが、階段はまだ上まで続いている。キズミンの眼差しは少なくとも、警部補の先にある警部(Captain)、そのまた先にある”星一つ”の警視(Commander)あたりまで向けられていただろう。

その年の10月、キズミンは本部長の代理としてハリー・ボッシュを訪ねた。そのころボッシュはLAPDを辞めて私立探偵をしており、1999年に未解決に終わっていたある殺人事件を調べていたのだが、キズミンはボッシュにその調査から手を引くよう警告する。彼女は、その事件がDHS(the Department of Homeland Security;国土安全保障省)の管轄になったことはボッシュに伝えなかった。(暗く聖なる夜; Lost Light

cd-high-jingo-lee-konitz刑事仲間のあいだでよく使われる言い方で、事件が”ハイ・ジンゴ”(high jingo)になった瞬間だったが、現場から疎まれる立場となったキズミンの心境は複雑だったろう。(”ハイ・ジンゴ”については、「ボッシュ・シリーズと音楽 その9」を参照)。この問題をめぐっては、立場の違いから、キズミンとボッシュの間にかなりの軋轢が生じることになった。この事件はボッシュの自宅での銃撃戦で実質的に幕を閉じるが、キズミンは、FBIとともに事情聴取するためボッシュをパーカーセンターに呼び寄せる。ただ、そのようなことがあった後も、キズミンは、ボッシュとの関係を修復し、ふたりは友人であり続けることができた。

2004年4月、「天使と罪の街(The Narrows)」の事件後のことである。キズミンは、退職から3年以内ならば警察学校での再履修を免除するという新たな制度を利用し、ボッシュをLAPDに呼び戻そうとする。RHDに新設される未解決事件班(Open-Unsolved Unit、正式にはCold Case Special Section;CCSS)がボッシュに適していた。かれは、キズミンが同じ班に合流するならOKという条件を付ける。彼女も承諾し、パーカーセンター6階から5階に移動した。キズミンとボッシュはふたたび同じ職場で働き始めたのだが、お気づきのとおり、キズミンの階級はボッシュより上となっている。

ミステリマガジン 2010年 07月号 [雑誌]その後、キズミンはボッシュと共に、解決されずに終わった過去の多くの事件をひもといていく。2005年には、17年前の少女殺人事件を追い、当時の警察上層部の不審な行動をつきとめ、メディアに捜査状況を流すことで隠れた真犯人をあぶり出した(終決者たち; The Closers)。また、シリーズ番外の短編作品、「捜査の切り口(Angle of Investigation)」(ミステリマガジン 2010年7月号所載)では、ボッシュが新米警官だったころの古い事件を解決に導いた。

しかし、どんな事件捜査にも危険は付きものだ。2006年9月の事件で、キズミンは惨事に遭い、自分が必ずしも現場活動に向いていない事実を思い知ることになった。(エコー・パーク; Echo Park) チームは連続殺人者自身を伴って現場捜索を行なうが、その最中にキズミンは逃走しようとする犯人に撃たれ、重傷を負ってしまう。彼女は、犯人が別の刑事から銃を奪ったときに「身がすくみ、凍りついてしまった」ことをボッシュに話す。その後、幸いなことにケガから回復。監察官には自分がクリアな銃撃をできなかったと言い訳する。彼女は仕事に復帰するが、RHDを離れてふたたび本部長室に戻りたいと、ボッシュにうちあけるのだった。

ヘルプ ~心がつなぐストーリー~ [Blu-ray]さて、このあたりで、だれがキズミン(キズ)・ライダーを演じるべきか、という恒例のテーマを考えてみよう。すでに選んだエレノアやレイチェル役もそうだが、実際に映画を撮るためのキャスティングではないので、この際、女優自身の実際年齢は無視していただきたい。筆者は、キズミンが若い刑事から、こののちLAPDの幹部級にのし上がっていくことも考え、実力があり、キャリアとともに貫禄も備えてきた女優、ヴィオラ・デイヴィス(Viola Davis)を推したいと思う。

Photo by Chrisa Hickey - Actors Julius Tennon and Viola Davis at the 81st Academy Awards (2009) / CC BY 3.0
Photo by Chrisa Hickey – Actors Julius Tennon and Viola Davis at the 81st Academy Awards (2009) / CC BY 3.0

彼女は、これまた偶然であるが、2008年の「ダウト – あるカトリック学校で」において、筆者が前の記事でレイチェル・ウォリング役としたエイミー・アダムスと共演し、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされている(そのときは同時ノミネートされたエイミー・アダムスが受賞)。その後、2011年の「ヘルプ – 心がつなぐストーリー」でも、黒人メイドのすばらしい演技で同主演女優賞にノミネートされた。また、2010年の演劇作品「Fences」ではトニー賞(演劇主演女優賞)を受賞している。

キズミン(キズ)・ライダー その3につづく

暗く聖なる夜(上) (講談社文庫)暗く聖なる夜(下) (講談社文庫)

天使と罪の街(上) (講談社文庫)

天使と罪の街(下) (講談社文庫)

 

 

 

終決者たち(上) (講談社文庫)終決者たち(下) (講談社文庫)

エコー・パーク(上) (講談社文庫)エコー・パーク(下) (講談社文庫)

 

 

 

 

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投稿者: heartbeat

管理人の"Heartbeat"(=心拍という意味)です。私の心臓はときおり3連打したり、ちょっと休んだりする不整脈です。60代半ば。夫婦ふたり暮らし。ストレスの多かった長年の会社勤めをやめ、自由業の身。今まで「趣味は読書」といい続けてきた延長線で、現在・未来の「同好の士」に向けたサイトづくりを思い立ちました。どうぞよろしくお願いします。