「良いことも、悪いことも起こる」のが世の常である。ボッシュが幸運に恵まれ、1984年に購入したウッドロー・ウィルソン・ドライブ(Woodrow Wilson Drive)の自宅は、およそ10年後、1994年1月の大地震で大きなダメージを受けてしまう。
この、ロサンジェルス地震とも呼ばれるノースリッジ地震(Northridge earthquake)は、1994年1月17日、ロサンジェルス北西部で発生した。マグニチュードは6.7で、サンフェルナンドバレー(San Fernando Valley)西部とサンタモニカ(Santa Monica)で最も大きな被害を生じ、被災者は死者57名、負傷者 8,700人以上にのぼった。サンタモニカ高速道路(Santa Monica Freeway, Interstate 10)やアンテロープバレー高速道路(the Antelope Valley Freeway, State Route 14)が大規模に崩壊するなど、経済的損害は米国の地震災害史上最大といわれる。
ボッシュの自宅を含め、多くの家々が全半壊した。被災住民に対して、市は立ち退きを命令し、のちにそれらの家屋は取り壊されることになった。住むことが危険な状態となった建物には、FEMAによる「居住不可」の赤札が貼られ、黄色の立ち入り禁止テープが巡らされた。ボッシュは密かに抵抗し、3ヶ月ほど住み続けるが、やがて退去を余儀なくされる。このあたりの様子は、「ラスト・コヨーテ(The Last Coyote)」に描かれている。
しかし、その後、ボッシュは自宅を再建する。家を建てている間、かれはハリウッドにあるマーク・トウェインホテル(The Mark Twain Hotel)に滞在していたとされる。そして、住宅ローンについては元々の部分を含め、2002年までに、どうにかして完済したのであった。
ところで2002年といえば、ボッシュにとって重大な転機となった年である。その年の元日早々から、ある衝撃的な事件に取り組むのだが、その結末にあたってボッシュは、1977年以来およそ25年間勤め続けた警察を退職するという、きわめて大きな決断を下すのである。
ローン完済は、このできごとに同期しているのかも知れない。しかし、自宅再建の話はさておき、上記の2002年の事件は、シリーズ中の傑作、「シティ・オブ・ボーンズ(City Of Bones)」に描かれているので、まだもし未読であれば、一読をおすすめする。深い哀しみを背負いながらも強く生きるボッシュに、だれもが胸を打たれることは間違いない。