2002年10月、LAPDを退職し、私立探偵となったボッシュ52歳。かつて銃弾に倒れ車椅子の生活を送る元同僚からの電話を受け、ボッシュは、かれ自身にとっても悔いの残る未解決事件の調査を始める。そして、そこに自分の使命を見出すことになる。「暗く聖なる夜(Lost Light)」
ところが、事件とFBl捜査官失踪の関連を知ったボッシュは、LAPDとFBIの双方から厳しい警告を受ける。背後には予想を超える大きな動きが隠されていた。ボッシュは私立探偵という慣れない立場で、難解な事件の謎に迫っていく。本作でコナリーは一人称表現を用い、ボッシュの孤高さを見事に描いている。
さて、「エンジェルズ・フライト」で別離したエレノア・ウイツシュは、そのとき妊娠していることをボッシュに告げていなかった。「暗く聖なる夜」でボッシュは、エレノア、そして娘のマディ(マデリン; Madeline “Maddie” Bosch)に会う。マディの存在が人間ハリー・ボッシュを劇的に変える。
「容赦なく何事にも屈しなかった男はいまや脆さを見せている。(中略) 彼は自分に娘がいたと知った。多くの点で以前とはすべてを一変させる過去のよすがである。娘をつうじてハリーの心に手を伸ばすこともできる。こうして物事は変化する。特にハリー本人が。」(「ヒエロニムス・ボッシュ」マイクル・コナリー(三角和代訳)ミステリマガジン2010年7月号より)
2004年4月、平穏な引退生活を送っていたはずのマッケイレブが不審死を遂げた。「天使と罪の街(The Narrows)」の冒頭、私立探偵ボッシュは未亡人からの依頼を受け、マッケイレブの遺したメモに導かれて調査を進めていく。一方、ネヴァダの砂漠では多数の他殺死体が発見され、FBI捜査官レイチェル・ウォリング(Rachel Walling)はかつて取り逃がした稀代のシリアル・キラー「詩人」の犯行を確信する。詩人については前篇の「ザ・ポエット(The Poet)」を読了しておく必要がある。
ボッシュはマッケイレブの身にふりかかった事件を追い、やがてレイチェルと共に最大の未解決な「悪」に対峠していくことになる。本作ではラストに向かって、シリーズと外伝における別々の物語の支流が、一本の水路(The Narrows)ヘと激しく合流していくのである。