ボッシュの履歴書(4) 左遷からのスタート

1990年5月、LAPDの「下水」と揶揄されるハリウッド署。そこに刑事として勤務する、40歳のハリー・ボッシュ。かれの物語は、いきなり左遷された職場からスタートする。第1作「ナイトホークス(The Black Echo)」の冒頭である。

LA_hollywood-682851_960_720ボッシュは、そこらにいる大勢の刑事とおなじ、ではもちろんない。ただけして超人的ヒーローではなく、ダーティ・ハリーほどの型破りでもない。基本的な仕事スタイルは「現場主義」とか「地道な捜査」と形容でき、実際の刑事たちが行っている捜査方法と違わない。つまり仕事ぶりという意味では、ボッシュは優秀であり、語感としての違和感が少しあるものの「敏腕刑事」と呼んでいいかも知れない。

しかし、「地道」や「敏腕刑事」と少なからず矛盾するようだが、周囲から見れば「問題児」であることも確かなのである。他人と馴れあうことを潔しとせず、組織のなかで衝突やあつれきが絶えない。だから、休職処分や左遷といった憂き目にもよく遭っている。ただ、そういうボッシュにも誰かしら応援者はいて、まったくの孤立無援でもない。

このように説明しようとすればするほど、真のハリー・ボッシュはどんどん遠ざかっていくような気がする。とりあえず、警察組織のなかで悪戦苦闘する刑事、とでもしておくほかないだろう。「ボッシュ人物論(3)どのような警察官か」で、詳しく検証する。

「このシリーズは厳密な意味での警察小説ではない。少なくともエド・マクベインの〈87分署〉が警察小説の典型だという意味では警察小説ではない。ボッシュは警察官には違いないが、その行動原理は大方の私立探偵と同じく反組織的自立主義で、集団的な捜査活動に参加するわけではないからである」(郷原宏;「夜より暗き閣をゆく最後のコヨーテ ― マイクル・コナリー賛歌」、ミステリマガジン2010年7月号より)

なお本作で、主人公ボッシュは、運命の女性となるエレノア・ウィッシ(Eleanor Wish)に出会う。

ボッシュの履歴書(5)につづく。


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投稿者: heartbeat

管理人の"Heartbeat"(=心拍という意味)です。私の心臓はときおり3連打したり、ちょっと休んだりする不整脈です。60代前半。夫婦ふたり暮らし。ストレスの多かった長年の会社勤めをやめ、自由業の身。今まで「趣味は読書」といい続けてきた延長線で、現在・未来の「同好の士」に向けたサイトづくりを思い立ちました。どうぞよろしくお願いします。