2007年3月、その半年前の「エコー・パーク」事件の余波で、ボッシュは殺人事件特捜班(the Homicide Special Section)に異動していた。負傷もあって本部長室勤務になったキズミン・ライダーに代わり、若いイグナシオ・フェラス(Ignacio “Iggy” Ferras)がパートナーに。
新チームはマルホランド展望台(the Mulholland Scenic Overlook)で発見された射殺体の事件に出動する。そこでボッシュはFBI捜査官レイチェル・ウォリングと再会し、テロリストが関与している可能性を知る。FBIの介入に阻まれながらも、ボッシュの12時間の緊迫の捜査が描かれる。「死角(The Overlook)」
同年11月、ボッシュはある事件の捜査を通じて、刑事弁護士ミッキー・ハラー(Michael “Mickey” Haller)に出会う。ボッシュとハラーは初対面でお互いにどこか見覚えがあると感じる。ふたりは結局、タッグを組んで難解な事件と裁判に取り組んでいく。「真鍮の評決 リンカーン弁護士(The Brass Verdict)」
「上下巻760頁あまりの作品の中に様々な謎をちりばめながら、最後までその実体はわからず、最後の一瞬で解き明かされる。読者は、その意外性に息を呑む」(木村晋介弁護士の解説より) まさに、法廷サスペンスの大傑作だ。この作中のラスト近くで、ふたりはお互いが誰かを確認する。
2009年5月、ボッシュとは直接関わりのないところで、「スケアクロウ(The Scarecrow)」の事件が描かれる。記者ジャック・マカヴォイとFBI捜査官レイチェル・ウォリングが解決にあたる。
2009年9月、ボッシュ59歳。LAサウス・セントラルの酒販店主殺害事件を発端として、その背後に中国系犯罪組織の存在が浮上し、同時にボッシュの娘マディーが香港で誘拐されてしまう。ボッシュは娘を救出すべく、39時間の行動猶予を得て香港に飛び、エレノア・ウィッシュらとともに街中を必死に捜索する。「ナイン・ドラゴンズ(Nine Dragons)」
ボッシュは事件の意外な相貌を明らかにしてゆくが、かれらに突然襲いかかる暴力、そして悲劇の瞬間を避けることはできなかった。事態は、地元の法執行機関が動き出す直前に、ボッシュがマディを伴って香港を離れ、物語の完結を待つのみとなる。
LAに帰還後は、異母弟ミッキー・ハラーがボッシュを助ける。ボッシュとマディ、ボッシュとハラーという2つの関係性がコナリーの作品世界に強固な軸、あるいは土台を築こうとしている。これ以降、ボッシュの年齢が次第に読者の懸念事項となっていくことが明白なだけに、この新しい家族のつながりが将来にわたる作品の持続性を担保していることはまことに大きい。