ボッシュの履歴書(10) 殺人容疑

わが心臓の痛み」から3年後の2001年1月、「夜より暗き闇(A Darkness More Than Night)」の事件が起こる。ハリー・ボッシュとFBIを引退したテリー・マッケイレブ、ふたりの軌跡がクロスオーバーし、驚くべきことに主人公ボッシュが殺人容疑をかけられる。

The Owl's Nest Hieronymus Bosch
The Owl’s Nest
Hieronymus Bosch

元心理分析官のマッケイレブは、ある猟奇的な殺人事件への捜査協力を依頼された。かれは被害者と因縁のあったボッシュを、何と容疑者としてリストアップする。マッケイレブが旧知のボッシュのもとを訪れると、ボッシュは別の殺人事件の捜査官であり、かつ全米が注目するその裁判の重要証人でもあった。その後、この2つのプロット、捜査と裁判がスリリングに絡み合っていく。

Detail from The Garden of Earthly Delights 「快楽の園」(部分)
Detail from The Garden of Earthly Delights
「快楽の園」(部分)

マッケイレブは、ボッシュの危うく不安定な内面を容赦なく暴いていき、読者もマッケイレブの目を通して、はじめてボッシュを客観視することになる。「深淵を覗く者」に対して「自分が怪物とならぬよう気をつけなくてはならぬ」という、あのニーチェの警句が、ついに現実の問題と化したかのような戦慄を覚えるのである。ニーチェの警句についてはこちら「ヒエロニムス・ボッシュ」の秘密 その2

 

「マッケイレブから見たボッシュは、ボッシュが自分について思っている以上に危うく、攻撃的で、暗い。人が人であるための一線をいとも容易く超えてしまいそうな、そんな匂いをぷんぷんさせている。それゆえ、マッケイレブはかつての仲間で、しかも少なからず好意を抱いているはずのボッシュに殺人の容疑をかけるのだ。これまでは常に追う側、だったボッシュが、今回は紛れもなく追われる側になる。彼は追う側に戻って来られるのか、それともこのまま追われる側の人間になってしまうのか・・・」(五條瑛氏;夜より暗き闇解説より)

Portrait of Hieronymus Bosch
Portrait of
Hieronymus Bosch

なお、この物語のなかでマッケイレブは、画家ヒエロニムス・ボッシュの絵を紐解くことから、ボッシュを容疑者とみなすに至る。画家ボッシュとの関係について、詳しくはこちら。

また、ボッシュとマッケイレブの最初の出会いについて、この事件の中で読者に明らかにされる。本シリーズ全体のなかで、ふたりが交錯する全軌跡については、こちら。

 

ボッシュの履歴書(11)につづく。
夜より暗き闇(下) (講談社文庫)夜より暗き闇(上) (講談社文庫)

More from my site

  • ボッシュ・シリーズと音楽 その17ボッシュ・シリーズと音楽 その17 前作「転落の街 (The Drop)」から再び2年が経過した。「ブラックボックス (The Black […]
  • エレノア・ウィッシュ その3エレノア・ウィッシュ その3 エレノア・ウィッシュは「ナイトホークス」における事件決着の結果、ラスヴェガスのカリフォルニア女性刑務所(the California Institution for […]
  • ブラックボックス The Black Box その2ブラックボックス The Black Box その2 シリーズを読み通してこられた読者ならよくご承知の通り、ハリー・ボッシュの周辺では公私を問わず、というか公私が錯綜するかたちで、多くの女性が現れては去り、また現れては去っていくとい […]
  • ナイト・ホークス by Edward Hopperナイト・ホークス by Edward Hopper 本シリーズのテーマ、少なくともその重要な部分を直観的に理解するには、エドワード・ホッパー(Edward […]
  • ボッシュ・シリーズと音楽 その3ボッシュ・シリーズと音楽 その3 シリーズ始まりの4連作・完結編「ラスト・コヨーテ(The Last […]
  • ロサンジェルスは「第2の主人公」ロサンジェルスは「第2の主人公」 「わたしはロサンジェルスに行ったことはありませんでしたが、チャンドラーの小説をとおして大いに興味をそそられました。ロサンジェルスという街がわたしを惹きつけたのです」(「マイクル・ […]

投稿者: heartbeat

管理人の"Heartbeat"(=心拍という意味)です。私の心臓はときおり3連打したり、ちょっと休んだりする不整脈です。60代半ば。夫婦ふたり暮らし。ストレスの多かった長年の会社勤めをやめ、自由業の身。今まで「趣味は読書」といい続けてきた延長線で、現在・未来の「同好の士」に向けたサイトづくりを思い立ちました。どうぞよろしくお願いします。