チェイシング・リリー Chasing The Dime

lights-801894_960_720-2本作の主人公ヘンリー・ピアスは、ナノテク化学者で、ベンチャー企業の代表も務めている。かれの引越先の新しい電話に、「リリーはいるか?」という間違い電話が次々にかかってきた。リリーはネット上に広告を出している評判のエスコート嬢だった。それほど男たちを惹きつけるリリーとは何者なのか。ピアスは彼女の失踪を知り、さらに行方を探し始める。その直後、彼のもとに強烈な脅迫が・・・。

本作はボッシュ・シリーズと関係のない単発作品のようにも見えるが、実はそうでなない。コナリーは、街娼であった母親の殺人事件をボッシュに捜査させる物語を書くにあたって、ジェイムズ・エルロイの生い立ちをそのまま拝借し、後年、エルロイの了解を得ている。

すなわち、殺されたエルロイの実母、エルロイが小説化したLAの娼婦ブラック・ダリア、殺されたボッシュの母マージョリー、そして本作における美しきブルネットの娼婦リリーは、いまも現実に犯罪の犠牲者となっている女性たちの一人にほかならない。彼女たちのために復讐bar_neon-170182_960_720-2の物語をかくコナリーと、犠牲者を代弁してその復讐を実行するハリー・ボッシュにとって、同一の人物像なのである。(「コナリーの語る、エルロイとの関係」はこちら)

実際のプロットとしても、本作の事件は「ナイトホークス」や「ブラック・ハート」などで描かれたドールメイカー事件と交錯する。また、「エンジェルズ・フライト」、「夜より暗き闇」で検事補として登場したジャニス・ラングワイザーは本作では主人公の弁護士として登場し、ある場面でボッシュらしき人物について言及する。

また、主人公「ピアス(Pierce)」という名前は、かつてコナリーがボッシュ・シリーズを執筆開始したころ、最終的にヒエロニムス・(ハリー)・ボッシュの採用を決定する前に、かりに決めていた主人公刑事の名前である。その経緯はコナリー自身に語ってもらおう。

「この刑事をピアスと名づけた。いつだったかどこかで、フィクションの探偵あるいは刑事には、社会のすべてのヴェールと層を貫く(ピアス; pierce)意志と能力が必須であるとレイモンド・チャンドラーが書いた言葉を読んだことがあった。わたしの刑事はそうした男になるはずだったから、ピアスと名づけたのだった」(「ヒエロニムス・ボッシュ」マイクル・コナリー(三角和代訳)ミステリマガジン2010年7月号より)

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投稿者: heartbeat

管理人の"Heartbeat"(=心拍という意味)です。私の心臓はときおり3連打したり、ちょっと休んだりする不整脈です。60代半ば。夫婦ふたり暮らし。ストレスの多かった長年の会社勤めをやめ、自由業の身。今まで「趣味は読書」といい続けてきた延長線で、現在・未来の「同好の士」に向けたサイトづくりを思い立ちました。どうぞよろしくお願いします。